春先

季節に慣れることはない。去年の春もその前の春もとっても綺麗だったことを、今年の春の最初の日に思い出す。匂いも肌触りも、出会う毎に愛おしくて、本当に綺麗なものは過去も今も変わらず、どの時点を切り取ったって綺麗なのだとわかる。思い出の中の春も今目の前にある春も、同じ色をしている。

でも、綺麗なばかりの春なんて嘘だろうよ。頭が沸いているだけだ。

雪がとけて、カラフルな蛆虫が地面から這い出て山から降りてきて、それが脳に寄生するから春は幸せなんです。いかれた人が街に少しだけ増えるし、私の頭も浮ついている。そして、そうして幸せな季節に油断をしたころに夏が襲いにかかってくることを、私は身をもって知っている。春が来るなら夏だってあること、今年の私は忘れていない。春に浮ついている場合ではなくて、そろそろ夏の下準備を始めなくてはならない。春は買ったきり一度も着ていないワンピースを着るための季節、終わらせるなら夏の前です。恋や、花見や、いのちなど。