2018-01-01から1年間の記事一覧

夏3

十日ぶりに家に帰ったら、玄関で小さなトマトが六つほど、白と深緑の黴を被って出迎えた。資源ごみは月曜日。もう何週も、月曜日のこない一週間を繰り返しており、部屋の中には空のペットボトルが溢れるほど。私の身体はどれくらいの液体でできているのかし…

夏2

衝動殺人犯と連続殺人犯の脳のMRIを見比べたり、犯罪白書を読み漁ったり、少年たちの箱庭を見たりなど、している間に、いつの間にか私まで何かを犯した気持ちになって、正常性とは論理的であることではなくて、単に理不尽や矛盾の存在をそのままに置いておけ…

夏の虫に刺された部位を掻き壊して掻き壊して血が出るまで、日がな一日、人の話す声が聞こえてくる気がするというだけの理由でテレビの前にうずくまり、脳まで届く情報は専ら気象予報の音声ばかり、ただこうしてじっと息をしているだけなのに部屋はごみで溢…

底々

考えても考えても本当に欲しいものなど何一つ見つからない寂しさを埋めるための、快楽以外のものが欲しくて、あれこれ試して、やっぱりこれじゃなかったという、もう何百回目の、焼き直しの絶望を、 肥大化もせず、深化もせず、なぜなら底であったから、そし…

顔は知っている他人

世界には、人名がほんの数パターンしかない地域もあるそうで、そのような場所では人名がどのような役割であるのだろうか、感覚的には理解し得ないが、人名が固有名詞としての機能を果たさない、それはつまり二人称が不在の世界なのかもしれないと想像し、そ…

選択

メメントするまでもないだろ、どうせ死ぬのに。 * 野次馬に、自分の死体の写真を撮られたくないという、それくらいしかない。還りたい帰りたいもう一度孵りたいと徘徊して私が行きつく先はどこになるのだろうと考える。どこかとても静かな水面に、音もなく…

褻の幸せ

「生きていさえすれば」、誰にでも平等で、無条件に与えられる、至極細やかな幸せが好きだ。誕生日や、道端の花や、季節など。なぜならそれらは、優しいから。非日常の幸せに慣れ、幸せの閾値が上がってゆくことに苦痛を覚えて、自らを貶める。本当に馬鹿な…

2017年7月7日

7月7日 アスファルトに乾いたもぐらの死体を転がすと腹には体液で黒くつやつやとした穴が開いており蛆がわいている 私はその穴に吸い殻を何本も何本も、まるで線香のように、かわいそうにと青空の下、蛆の焦げる匂いと照り返しの小便臭さを嗅ぎながら 日除け…

ゆるやかな解凍

冷凍庫から豚肉を出して、その辺に置いておいて、キッチンの床に丸くなり、友達に会いたくないなあと考えていたら、昼下がりの生ぬるい気温に、肉が、どろどろに溶けていた。親指と人差し指でつまむと、指先に、ぶよぶよしたお肉の、生臭い汁が、ついた。肉…

悪意

嫌いな人がいなくて、とっても寂しい。小学生の時、とても嫌いだった女の子が、ベタを大切に飼っていた。私はその子の家へ呼ばれる度、そのベタを便所に流す空想ばかり、何度も何度も繰り返していた。その空想は、とても気持ちのよいものだった。遂にベタを…

雲霧

500個くらいのやるせない出来事が、小さなものから大きなものまで立て続けに起こり、その複合的な鬱憤が、それはもう視界の端から思考の端まで隅々に、ぼんやりとした虚しさや諦めや呆れは悲しみよりも悲しいなと思いつつ、取るに足らないクソみたいなそれら…

綺麗

清濁のいずれもを、心から綺麗だと感じられるのが、私の唯一の才能だと思っている。遺伝子組み換えで見事に創られた大輪の薔薇も、烏が集う繁華街のゲロ塗れのゴミ捨て場も、同等に綺麗だ。心から言える。寧ろそれらはとっても似ていると、私は思う。その中…

掃き溜め

いくらやっても伝わらないんだからもう言葉を吐く行為全てをやめようと思ったけれど、いくらやっても伝わらないのならば、やってもいいよな。いや、よくない。でも、それでも。 自分の感情一つ大切にすることもできず、生きてなんかいけるかよって思った。 …