悪意

嫌いな人がいなくて、とっても寂しい。小学生の時、とても嫌いだった女の子が、ベタを大切に飼っていた。私はその子の家へ呼ばれる度、そのベタを便所に流す空想ばかり、何度も何度も繰り返していた。その空想は、とても気持ちのよいものだった。遂にベタを便所に流す機会は訪れず、中学に上がったら自然と縁が切れた。高校の時、嫌いだった女の子の携帯電話が駅のホームに落ちているのを見つけた。線路に落とすことも、駅のゴミ箱に捨てることもできたのに、丁寧にもその子の元へ、届けてしまった。その子とも、自然に縁が切れた。

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嫌いな人がいなくて、とっても、寂しい。

今ではもう、疲れてしまって、人を嫌う体力など残っていない。あの時に、ベタを便所に流していたら、よかったのに。あの時に、携帯電話を、何食わぬ顔で、ゴミ箱に突っ込んでいたら、――当時どれだけ爽快だっただろう、現在どれだけ息がしやすかっただろう、と、今でもしばしば、思い出すたびに、後悔をしている。