ゆるやかな解凍

冷凍庫から豚肉を出して、その辺に置いておいて、キッチンの床に丸くなり、友達に会いたくないなあと考えていたら、昼下がりの生ぬるい気温に、肉が、どろどろに溶けていた。親指と人差し指でつまむと、指先に、ぶよぶよしたお肉の、生臭い汁が、ついた。肉の自然解凍の経過くらいのゆるやかさと曖昧さでしか、物を考えることができないくらいに、疲れている。

自然解凍した、びちゃびちゃの肉を、持て余している。食欲はないのであまり食べたくはなく、ではなぜ冷凍庫から出したのかと自問自答するも全くわからず、私はとても困った。とにかくこの肉を、せめて食用でなくても何かに使ってやらなければ死んだ豚に失礼な気がして、とりあえず、箸を手に取り、仏様に供えるご飯にやるみたいに、突き立てた。他には、何も、思いつかなかった。