好き嫌い

雨の日の外出が嫌い、食事が嫌い、帰路が嫌い、寒いのが嫌い、3人以上人がいるのも嫌い、車が通る道が嫌い、冬の洗濯が嫌い、一度も言葉を交わしたことのない知らない人はみんな嫌い、地元の駅が嫌い、遠慮のない明るさの照明が嫌い、夏の葉っぱの緑色が全部違う緑色をしているのが嫌い、図書館の本の汚れ具合がまちまちなのが嫌い、明瞭な発音の言葉が四方八方からたくさん聞こえてくるのが嫌い、嫌いなものがあまりに多くて、好きなものを増やさなくては生きていけなかった。だから、好きなものがとてもたくさんに増えてしまった。

好きなものが増えると、好きな気持ちを守るために、いろいろな努力をしなくちゃいけなくなる。何かを好きになるというのは簡単だけれども、何かを好きでい続けるというのは本当に難しく、理性と体力が必要なことだ。何かを好きでい続けるためには、とっても頑張らなきゃいけない。一日だって休んではいけない、本だって黄ばむし、花だって腐る。相手が生ものだったらなおさら、色褪せやすい。

好きなものを増やし、好きなものを好きでいるための努力をし続けるだけで一生が終わってもいい、と思うこともある。好きでいるだけではなく、うまく大事にできるようになろうと思うならば、命のすべてを使って足りるかどうかさえ怪しいけれども、それでも何かを好きでいる幸福に勝るものを知らないので、努めるほかない。

好きになれたものを、ちゃんと好きなままでいて、ちゃんと大切にし続ける経験を、この際人でなくて物だっていい、一生に一度でもしてみたい。